突然
11月24日朝、5年目に入ったブログをアップしてのんびりとしていると間もなく、チャイムが鳴った。
「Mです」、という声に聞き覚えが有り、画面に映っているのは十数年振りに見る、正しくMさんであった。
「用事があって近くまで来たので、ちょっと寄りました。」と云う事である。
「上がってかないかい。」というと、待っていたかのように
「はい」といって、上がってきた。
小生の音楽室兼書斎兼応接室に案内すると音楽を聞きたいと仰る。十数年前4年ほど同じ職場(年齢は小生より6~7歳下)であったが、Mさんが音楽を聴くという話は聞いたことが無かったので、一瞬戸惑った。その職場には、ジャズの愛好家(しかもLPオンリー)という猛者が小生の他に2人もおり、3人で昼休みなど連んで盛り上がっていたことはあるが、Mさんは温厚な性格も有り余り目立たずその手の話は聞いたことがなかった。
何をかけようか迷ったが、丁度朝聴いた森進一のLP(このところコード等色々と試しているので音の確認のため毎朝聴いている)が出ていたのでジャケットを見せたが、ちょっと不足げであった。
で、何がいいんかいね?と伺うと、
「バッハが聴きたい。」と言われる。
「じゃ、ブランデンブルク協奏曲でもかけましょうか?」というと、
「リヒターのマタイが聴きたい。」とのたまわった。
「バッハが好きなんですか?」と聞くと、
「マタイの後はシェリングの無伴奏、その後はリヒターのオルガンで次はフルニエの無伴奏をお願いします。」と仰るではありませんか。
ありゃー!! こりゃ本物だわい!きちんと対応しなければと気持ちを引き締めました。
最初の一音から真剣に聴いてくれましたので、当方も張りあいがありました。
フラット重量盤
マタイは第1面を全部と第5面の47番アルトのアリアを聴きました。普段はCDを聴かれているとか。
「上も下も家のCDよりズッと出ているし、アルトの質感が素晴らしい。」との感想を戴きました。
「ヴァイオリンの音が美しくて上までよく伸びている。絹の細い線という印象だったが、その線が更に数分の1で肌理細やかだ。」
「オルガンってこんなにも透明感に溢れているのか、音場感が凄い。」
フラット重量盤
「やっぱり、タンノイのチェロは渋いね、うーん。・・・」
そうこうしているうちに、お昼近くになり、そそくさとお帰りになりました。
時間が許せばフルトベングラーのベートーヴェン3番の第2楽章が聴きたかったとか。
十数年振りに会ったというのにお互いに大した会話もせず、ただ、バッハだけを聴いていましたが、何か温かいものがゆったりと流れていた事は確かでした。
勿論、今度は事前に連絡を取り合って、ゆっくりとお出で戴くと約束をしました。
数日後、封書を戴きました。
「自分で、これまで、バッハの『最高傑作を最高の・・』で、と思い込んでいたものが、『子供だまし』だったように思います。驚きの連続で、ポカンと口を開けたまま聞き入ってしまいました。
バッハを聞きます時、谷川俊太郎の『バッハは虚空に壮大な音の伽藍を築き上げた』という言葉を思い出しますが、まさにそのとおり、暗黒の宇宙空間に、自由自在に、広大無辺な世界を、時に鮮やかな彩りをもって繰り広げて『魅せて』くれます。
今回お聞きしまして、その世界の何と大きく、深い、聖らかな、繊細な、鮮やかな、勁い、謙虚な、自分という存在のいかに微小であるかを諭してくれるような、・・・・(ありとあらゆる形容語を飲み込んでしまうように思います)音楽を改めて体験させていただきました。」
昼食をとっていると電話です、件の「球友」父子が明日(25日・土)お見えになるとのことでした。一息ついていると、また、電話です、明後日午後Wさん(ワーグナーフリークですので昔こう呼んでいた。)、が遊びに来たいとのことです。
「球友」父子は、10時前にお見えになり、リクエストのLPを聞きながら、息子さんもアンプの話に加わって、3人で昼飯の時間も忘れて球談義に惚けっていました。女房が取り敢えず取り繕った肉まんをほおばって息子さんの予定があるとの催促でようやく解散です。1時半になっていました。お互い夢中になれるものがあるという事は素晴らしいことでもあります。
あまりに入れ込んでいたので、写真を撮るのを忘れましたが、毎月のように遊びにお出でですので、省略しても叱られんでしょう。
26日(日)の午後です。
ウワー、懐かしいナー。お会いするのは何年振りだろうか?
40代の頃行ったり来たりしましたが、お互いその後仕事が忙しくなったりで、偶に電話をするぐらいで、そういえばここ何年かは年賀状もご無沙汰だったな-。
顔を合わせるのは、二十数年振りです。
お互い歳をとったものだなーというのが、再会後の印象でした。
Wさんは若い頃英国に留学し、英国紳士の嗜みを学んで帰られたお方です。オペラ(中でもワーグナー)が好きで、バイロイトに足を運ぶのが楽しみだったとか。
小体を数枚聴いた後、「ベームのブラ1(2017年11月9日EMT JPA66Ⅱ参照)が聴きたい、これは再生するのが難しい盤なんだよねー」と言いながらリクエストされました。
「ウーン、家へ帰って聴くのがやになるなー。」とまあ、そこは英国仕込みの外交辞令もありましょうか。
人の声が聴きたいと言われるので、フォーレのレクイエム(ERATO)でもかけましょうかというと、「それじゃ、ベームのモーツァルトレクイエムを、例のオリジナル盤(2016年2月14日ORIGINAL盤Ⅳ参照)で。」と指定されました。
「納得」・「羨望」・「闘志」と複雑な表情を浮かべながら、「フー」と溜め息をつくのが聞こえました。かって小生も先輩のお宅で何度か味わった感情に似たもの、を何となく感じとりました。
締めはパルシファル(2017年1月28日WE300B S ⒄ ヒーター回路10参照)です。
「実際のバイロイトの会場を彷彿させてくれました。」と言われ、その後実演の様子等をいろいろとお伺いしました。
Wさんは、今はヴァイタボックスCN191をWEの124と142のアンプで曲によって使いわけておられるとか。
電源ケーブル、インターコネクトケーブル、スピーカーケーブル等の吟味を始めたので、来春頃には落ち着くと思いますよというと、4~5月の休み(未だ現役の経営者)、5月の連休なら確実に休めると云う事で、来年5月再会を期すことになりました。
この3日間、旧友から球友まで忙しくも充実していました。また、懐かしさに満ちた嬉しい疲れでもあります。
女房に、「また、背中が曲がっていますよ!」と注意されながら、パソコンに向かう日々、お陰様で同好の士とも出会うことが出来、寂しい老後を感じなくて済んでおります。
「死ぬまで元気に音楽を楽しもう。」
を合い言葉に、5年目も気張らずにと思っております。