千載一遇
オーディオクラフトPE6000sを改修し、絶好調宣言をして間もなく、件の店長から電話を戴いた。10月の連休の頃でした。
「EMTのフォノイコが下取りに出るんだけど聞いて見る?」
「聴くだけでもいいかねー・・・。」
「まあ、10日くらいだらいいよ、貸し出すヨー(相変わらず太っ腹だ)。」
JPA66を下取りに出す人がいるなんて半信半疑でしたが、それから二週間ほどして、持参してくれました。
取り敢えずそのまま(電源コード等付属品で)接続をして、聞いてみました。
先ずは、フォノイコの試聴、プリはKX-R Twentyを使いました。PE6000sの時は、ヴォリューム46,JPA66は33,フェーズメーションEA-1000は27、といったところです。EA-1000のMCトランスよりもJPA66はゲインが低いようですが、その分、広帯域を狙ったものと思われます。
スピーカーの前方二割・並び四割・奥へ四割と拡がる感じのオーディオクラフトPE6000sに対して、スピカーの前方三割・並び四割・奥へ三割という風に音場が展開されます。多分両機とも描く音場の奥行きは同じくらいなのでしょうが、コンサートホールの中央奥の方で聴いている感じのPE6000s、 〃 真ん中やや前で聴いている感じのJPA66、というところでしょうか?
PE6000sは抵抗(VISHAY VAR)受け、JPA66はMCトランス受けという違いもありましょう。
ただ、WE,オルトフォン、オーディオクラフト、マイソニック等の比較的初期型MCトランスを使ってみては、その狭帯域感、リートの大口、全てあからさまで奥ゆかしさが乏しい等の理由で結局は避けてきましたが、このJPA66にはそうした小生が馴染めずにいた事象がほとんど感じられません。
「ふーん、いいトランスを使っているとは聞いていたが、さすがだナー」といったところです。まあ、しばらくじっくりと聴いてみるかという気にはなりました。
初期のタイプ(ただ、前面左下のLevel Trimのボリュームがペンチでないと回せないということはありません。楽に回せます。)で、裏面には、ライン入力のXLR端子はありません。
尤も、入力はアナログのプレイヤーからに限定されている小生には、ライン入力など無くても全く不都合はありませんので、どうということもありません。
要は、RIAAのみならず、ffrrを始めとする他のカーブも含めたレコード再生がどうか、という一点で判断すれば良いことです。
特に、DECCAのステレオ盤でもSXLの2261番前後までは、RIAAではなくffrrだという情報を今年になって仕入れたので確認してみました。
SXL2214 バックハウス・ベーム・VPOでモーツァルトのピアノ協奏曲27番(’55年録音)です。
今までは、LP盤(LXT5123)と10インチ盤(BR3018)を取り出すことが多く、ステレオ盤は取り敢えず持っておくか程度でした。それほどに上手く再生できませんでした。
マニュアルに順ってDECCAカーブでステレオ再生です。
従来は、SPのライン下1/3に張り付くように音楽が鳴っていたのが、通常盤と同じ高さで「ラグビーボール+サッカーボールという音場」になってきました。再生される音楽が生きています、あの死に体模様だったピアノが実に伸び伸びと歌い出しました。しょぼくれた弦の音と思っていたのが何と、美しく聞こえるではありませんか。
「あー、やっぱり、再生カーブが合っていなかったんだ。DECCAのスタッフが意図した音はこうであったか。」と納得してしまいました。
淡々とした演奏の中に、バックハウスの穏やかな微笑みを感じました。ステレオ盤で、これ程の感動を覚えたのは初めてです。今後は、ステレオ盤もモノラル盤も区別無く楽しめます。素晴らしいことです。
(多分JPA66に限らず、イコライザーカーブのマッチングを図れば、可能だと思います。)
次はブラームス SXL2222(モノラルはLXT5308)’56年の録音です。
「ブラームスの細かい指示を、バックハウスは実に正確に守り抜いて弾いているが、その音の粒の間隙をうめる微妙なニュアンスが得も言われぬ芳醇なロマンの香りを放っている。この熟したロマンティシズムのコクは、それこそドイツの巨大な音楽伝統の酒蔵の中でのみ発酵するもので、実は現在のわれわれの環境から最も遠い、ある意味では全く手の届かぬ世界である。(レコ芸’63年二月号)」
「その音の粒の間隙をうめる微妙なニュアンス」が、ステレオ盤のffrrでは聞こえるような気がします。それ程に、音の粒が美しい余韻を引いているのです。
NO23,「APPASSIONATA」SXL2241 ’59年 です。
この盤もRIAAでは、少し寝ぼけたような音で、あまり覇気がありません。仕方が無いので、ステレオ盤は全集物・SXLA6452~61(’70年発売)の中のSXLA6458(こちらはRIAA対応)で、モノラル盤はLXT5596で楽しんでおりました。
やはり、オリジナル盤のDECCAカーブは別格です。もうこうなると、全集物を確保しておかなくても、ベートーヴェンを楽しめます。
今まで主役を張ってきたモノラル盤たち、今後はステレオ盤と仲良く棲み分けることになりそうです。お互いに良かったですネ!
リートから、フラグスタートのシベリウス、SXL2030 ’58年です。
ワーグナーで名声を博したフラグスタートですが、「円熟の頂点を示しており、滋味こぼるるばかりである。悠悠迫らぬ貫禄とスケールの雄大さの中に、人間の生活感情の細やかな襞を織り込んでいく。(レコ芸’63年五月号)」とあるように、絶叫することも無く、静かに愛情を込めて歌っておりますのが、良く聴き取れます。
これまた、グリーグの名盤「SONGS FROM NORWAY・SXL2145 ’59年」と共に蘇りました。
また、ベーゼンドンクリーダーやワルキューレ(クナッパーツブッシュ盤、ショルティ盤)等の断捨離してしまった本物を本気で探したくなってきてしまいました。
やっぱり、フラグスタートは素晴らしいです。
次は、バックハウスの協奏曲とかVPO関連の室内楽とか聴きたくなってきました。
尤も、その前にEMTJPA66はどうなるのでしょうか?