僥倖
水無月初め、件のSOさん、かねてお話戴いていた盤友の「江夏俊太郎」さんを伴って、3度目のご来宅でした。
宮崎県都城市にお住まいの江夏さん、上京の折に、時間を差し繰ってお出かけ下さったのです。クラシックレコード・コレクターの権威で、2000年7月の「アナログレコード再生の本」に執筆して以来、現在に至るまで analog誌で 「愛するジャケット」方形の宇宙 クラシック編 等を担当されているお方です。EMTの927,WE555等を中心にシステムアップされたリスニングルームの詳細は、analog誌Vol.4(2004年JUNE)レコード悦楽人登場!02に載っております。(因みに、01は「菅野沖彦」氏です。)
小生などから見れば雲上人ですが、SOさんのお誘いと云う事でこの山間地までいらして下さったのです。有り難いことでもあり、また、若干緊張もしました。
analog誌等でお馴染みの軽妙洒脱な文章同様の、該博な知識に裏打ちされたクラシック全般にわたるお話は、尽きることがなく、また何時までも聴いていたいほどでした。
楽曲に対する理解、演奏家の個性などLPを聴き終わる毎にお話し戴き、あっという間の4時間余でありました。
前回お出での際持参された1枚です。
それまでは、「Great Scenes from Wagner GEORGE LONDON KNAPPERTSBUCH VPO DECCA SXL2068」で、ショルティのリング一式(22枚)を断捨離してしまった寂しさを慰めていました。
「圧倒的」とも言うべきロンドン、ホッターは「神々しさ」とでも表現できましょうか。
断捨離に齷齪しているのに、買ってしまいました。それほどに魅力的です。
最近は良くHotterを聴いています(2017年5月6日 同志Ⅴ 冬の旅DGG138778、〃5月20日 KX-R Twenty Ⅷ 白鳥の歌Columbia33CX1269、参照)と話しながら、今、専門店にブラームスが出ているのですがと言ったとたんに、「ブラームスはいいですよ、買いです。」と江夏さんに背中をおされました。
全体としてみれば1枚増えるのも2枚増えるのも大して変わらない、とばかりに即日発注、
2日後のお昼には、ホッターの『詩(うた)』に痺れていました。
「ホッターの歌は例によって地味な歌いぶりだが、悠揚迫らず、来る者を拒まず、去る者を追わずの風格がある。どの歌にも慈父の眼差しが向けられて、何とも温かい歌だ。じっくりと人の心を温めてくれる歓びというものは、こうした演奏を指していうべきだろう。人生の憩いが歌の中に託されて、頑なな心もいつしかほぐれてくる。(レコ芸’58年6月号)」
’56年録音のこの盤辺りになるとブルーゴールドの33CXでも、ColumbiaカーブではなくてRIAAでいいんじゃないかと、拙宅の再生装置では思いますが、如何なものでしょうか?
ワーグナー歌手としてあまりにも偉大なホッターが、ブラームスの歌曲を愛情を込めたこまやかな表現によって、しみじみと聴かせてくれます。
まさに、勧められて良かった、買って嬉しいという盤であります。
さて、「1962年頃の録音のものまでは、モノーラル盤の方が音のバランス、緻密度の点で、やはり上のような気がする。(坂井克治氏、別冊ステレオサウンド・アナログレコードリスナーズバイブル)」という指摘もあります。小生も「2013年12月26日ステレオ盤とモノラル盤」で若干述べたことがありました。
4月にお宅にお邪魔した際「両方あるがモノラルが素晴らしい。」というふれ込みで聴かせて戴いた「冬の旅・ホッター、モノラル盤」は、その後小生宅でも確認し、これも我慢がならず、TAさんにお世話になって海外から取り寄せて戴きました。
右上にSTEREO表示がありません、モノラルオリジナルです。
「ホッター3度目の録音のこの『冬の旅』は、ホッター自身が歩み続けた歌の年輪の豊かさ、大きさを物語るものだ。今回の録音では充実した音楽的な声で終始している。そしてホッター独特の全人的な温かさが全曲を包んで、聴く者を憩わせてくれる。親船に乗った気持ちとはこのことだろう。そして、帰るべき故郷に帰ったという感じを持たずにはいられない。(レコ芸’62年11月号)」
昔購入したステレオ盤の1/5程度でした。再生音は、もう、圧倒的にモノラル盤に軍配です。しかも、小生宅の冬の旅ステレオ盤はDGGのテストプレス白レーベルフラット重量盤(既述)で、これ以上の物は無いと通常のオリジナル盤は放出した優れ物(?)です。
しかし、仲間うちに聞かせても、モノ盤を支持します。
鮮度が違います、音抜けが違います、モノなのに情報が多いのです。結果、聴いていてズッと楽しく、感動の度合いが異なります。ステレオ盤は、悪く言えば、音楽が死んでいます。(私感です。比較しなければ、ステレオ盤も勿論良い物です。)
同志のお陰で得ることが出来た3組のホッター、『断捨離態勢』を向こうにまわして、存在を誇っております。仕方がないので、総量を変化させない範囲で、ホッターを探し導入していくしかありません。
それにしても、若かりし頃はよく理解できなかったホッター、ようやく少しばかり聴けるようになってきたということでありましょう。
「レコもは」(「レコードを買うのを止めるのは、もはや死ぬ時だ。」音楽評論家「能地祐子」氏)から、小生も抜けきれないと云う事なのでしょうね・・・。